私たちの脳は「神経伝達物質」と呼ばれる化学物質を使って情報を伝えています。ドーパミンやセロトニンはその代表格で、気分や運動、やる気、快楽に深く関わります。
一方で、同じ「脳内物質に働く薬」でも、MDMA(エクスタシーなどの名称で知られる違法薬物)と、医療で使われるレボドパやセロトニン関連の薬は、その仕組みが大きく異なります。ここではその違いをわかりやすく整理します。
MDMAの作用
- セロトニンを一気に放出させることで強い多幸感や共感性を生みます。
- しかし、「貯めてあったセロトニンを無理やり吐き出す」ため、神経細胞に強い負担がかかります。
- 動物実験では、セロトニン神経の末端に不可逆的な損傷が見られることも報告されています。
👉 短期的には高揚感を得られても、長期的には神経にダメージを与えるリスクが高いのです。
レボドパの作用(パーキンソン病治療薬)
- レボドパは ドーパミンの材料(前駆体) です。
- 脳内で酵素によってゆっくりとドーパミンに変換され、欠乏している部分を補います。
- 「無理に放出」させるのではなく、「足りないものを作れるようにする」仕組み。
- 神経毒性はなく、適切に使えば安全性が高い薬です。
👉 ただし、長期使用では「効き目が切れる」「体が過敏に反応してジスキネジア(不随意運動)が出る」などの副作用が課題です。
セロトニン薬(例:SSRI抗うつ薬)の作用
- SSRIは セロトニン再取り込みをブロック します。
- つまり「使ったセロトニンが回収されにくくなる」ことで、シナプス間隙にセロトニンが長く残り、効果が持続します。
- 穏やかに調整するため、MDMAのように急激な枯渇や神経損傷を起こすことはほとんどありません。
まとめ:決定的な違い
- MDMA:セロトニンを強制的に放出 → 枯渇・酸化ストレス・神経損傷リスク
- レボドパ:不足分を補う材料 → 神経毒性なし、ただし使い方に注意
- SSRIなど:回収を抑えて濃度を上げる → ゆるやかで安全性が高い
患者さんへのメッセージ
一見すると「同じセロトニンやドーパミンに働く薬だから似ている」と思われるかもしれませんが、実際には作用の仕組みがまったく違うのです。医療で用いられる薬は、長期的な安全性や神経への影響が考慮されています。
👉 大切なのは「どうやって神経伝達物質を増やすか」。
急激に増やすものは脳を壊し、穏やかに調整するものは治療に役立ちます。

