脳の寿命を延ばす「脳エネルギー革命」 ― ケトン体がもたらす希望

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書籍の紹介

本記事で紹介するのは、佐藤拓巳(さとう たくみ)氏による著書
『脳の寿命を延ばす「脳エネルギー」革命 ― ブドウ糖神話の崩壊とケトン体の奇跡』(エール出版社、2021年)です。

著者の佐藤氏は東京工科大学応用生物学部教授であり、神経科学・抗老化医学を専門としています。従来「脳はブドウ糖だけをエネルギー源にする」という常識を疑い、ケトン体の可能性を多角的に紹介しています。


認知症の現実 ― 従来の医療だけでは止められない

認知症は、一度発症すると従来の医療だけでは完全に治すことも、進行を止めることもできない病気とされています。その理由は「海馬の錐体細胞」という記憶や学習に関わる神経細胞が、エネルギー不足に陥ることにあります。

エネルギー不足が起きると、

  • タウタンパク質の異常なリン酸化
  • アミロイドβの蓄積
  • 神経細胞死の進行

という負のスパイラルに入り、認知機能は徐々に失われていきます。


ケトン体が注目される理由

ブドウ糖代謝が低下したとしても、脳は「ケトン体」という代替エネルギーを利用できます。研究では次のような効果が確認されています。

  • ミトコンドリアに直接取り込まれ、効率的にエネルギーを供給
  • 脳血流量を約30%増加させる(PET研究による)
  • 抗酸化作用・抗炎症作用により、酸化ストレスからニューロンを保護
  • HDAC抑制により、抗酸化酵素を誘導し遺伝子レベルで神経を守る
  • マウス実験で認知能力の向上を確認

これらは、従来の医療が届かなかった「エネルギー不足」という根本問題に切り込むアプローチといえます。


エネルギー代謝から見た新しい認知症対策

著書の中では、認知症を「エネルギー危機」として捉える視点が提示されています。
従来の医療が「神経伝達物質」や「アミロイドβの除去」に注目してきたのに対し、ケトン体はもっと根源的に細胞が生きるためのエネルギー供給を支えます。

この発想は、「進行を止められない病」とされてきた認知症に対して、症状を緩やかにし、生活の質を保つ可能性を開きます。


今後の展望

もちろん、ケトン体の作用はまだ研究段階にある部分も多く、すべての患者に万能ではありません。ですが、

  • 食事改善(MCTオイルやケトン食)
  • サプリメントの活用
  • 光・運動療法との組み合わせ

などを通じて、実生活で取り入れやすい形で実用化できる可能性を持っています。


まとめ

従来の医療では進行を止められない認知症に対して、ケトン体は「エネルギー代謝改善」という新しい武器を提供してくれます。
認知症の進行を完全に止めることは難しいかもしれませんが、ケトン体によって 「脳の寿命を延ばす」可能性がある――これが本書の強いメッセージです。

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